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海の古書店

本のこと、心に浮かんだことを綴ります。香りのお店「Atmosfera」:http://atmosfera-kamakura.com/ お問い合わせ: books@good.memail.jp


by uminokosyoten

海辺の本棚『外は夏』

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昨夜、賑やかな語らいから帰宅して片付けを終えたところで、
ベッドサイドに置いたままになっていたこの本が目に止まりました。


キム・エランの短編集。
「喪失」を軸にして語られる物語たち。
辛いはずの物語を手放すことができずに読み続けてきた本。

多様な人物設定と密であるようでどこか隔たりのある人間関係。
誰が私、というわけではないのですが、
この中に自分のカケラがたくさんあるようで、
共鳴するよりはむしろ、同期するような心で読んでいました。


人は常に「喪失」への不安を抱き、
その哀しみを遠ざけようとして自分の祈りの行き場を探しているように思います。
短編集の多くに重要な役割を果たすのが携帯電話。
タッチするだけで、あるいはプッシュするだけでたちどころに相手に言葉が届いてしまう。
返事を待つことの時間も手紙に比べて比較にならないほど短い通信手段。
待つ時間に生じる不安。
あるいは予期せぬ便りが届く不意打ち。
今、私たちが晒されている様々な不安の、
そして失いたくないと思っているもの「場」を描くことで、
作者は逆にそのさきに自らも含めての「救い」を見出そうとしたのかもしれません。

「喪失」は埋まらない穴。
立ち去らない影。
それでも、今日、やはり人は何かを信じたくて呼吸している。

眼差しや音の表現がとても緻密で映画を観ているような読後感でした。
同じ作者の作品をもっと読んでみたいと思いました。





『外は夏』→



















by uminokosyoten | 2019-08-04 08:31 | 本読み便り