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海の古書店

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by uminokosyoten

秋色本棚『迷走患者: 〈正しい治し方〉はどこにある』

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いつも読ませていただいているブログでご紹介があって
Kindle版で購入しました。
どうしても「すぐに」読みたく思ったものですから。


「闘病記」として読んでいたつもりでしたが、
いつのまにか著者の岩瀬さんのお気持ちに入り込んでしまって。
読み終えたときには拍手を送りたい気持ちになっていました。


膠原病。
これは自己免疫疾患の大きなくくり。
同じくくりの中でも症状は様々で治療法も異なります。
岩瀬さんは病名の特定のためにたいへんな苦難の日々を過ごされます。
検査、薬、検査、薬、検査‥‥。
読みながら、自分の人生を反芻するような思いでした。

20年ほど前に私が疑われたのは膠原病のなかの全身性エリテマトーデスでした。
私は8年ほどステロイドを服用しました。
岩瀬さんほど多量の投与ではありませんでしたが。


岩瀬さんの強さは
不安や恐怖を隠さないで書かれたことにあると思います。
理由のわからない病気になったとき、
誰だって怖いし、
誰だってドクターにもっと自分の体を理解してほしいと思うはずです。
でも、それがなかなか口に出せない。
「もっとひどい症状の方も多いのですから」などと言われてしまうと
黙り込んでしまう。

思い出したことがいくつもありました。
めまいがひどくて階段が上れないというと、
検査用の階段を上り下りさせられる。
「どこが痛みますか」と尋ねられて
「肩が痛い」「胸骨が痛い」「膝が痛い」と、その時々で答えると、
「膠原病の痛みは移動することが特徴ですから」と説明されて
それでおしまい。
関節が腫れていても「データには出ていませんから」と
関節に触れてもみない。
見ているのはデータであって、人ではなかった。
岩瀬さん同様、ステロイドの副作用と思われる疾患がみつかるたびに
専門外来にまわされ、心臓、肝臓、腎臓、皮膚科と掛け持ちで受診。
薬の種類が増えるばかりで、肝心の体の痛みは軽減されないままでした。

岩瀬さんはアーユルヴェーダを推奨するライターでもいらして、
ご自分との向き合い方にさらなる葛藤も生まれます。
その煩悶もしっかりと書いていらして。
ステロイド服用に踏み切るまでに挑まれたアーユルヴェーダの治療で
スリランカの小さな村で体験された1ヶ月半の暮らしがたいへん印象的でした。
誠心誠意尽くそうとするドクターの家族ぐるみの治療。
本来医療とはこんな形のものだったのだと感銘を受けました。
残念ながら、結局ステロイド治療に踏切らざるを得なくなられた岩瀬さんですが、
このドクターの家族との関わりはきっと生涯の支えになられると感じました。

気持ちの動揺。
これが病と向き合うときに一番つらいものだと思います。
それを克服する最大の幸運はよいドクターとの出会い。
岩瀬さんはそれを体ごと、心ごとぶつかりながら
自分の人生に引き込んで行かれます。

それは岩瀬さんご本人の幸運でもあれば
めぐりあったドクターご自身の幸運にもなることだと思いました。
岩瀬さんがドクターに書かれたお手紙に胸熱くなりました。



<珍しい病気になり、明確な決まりごとのない治療を受けるうえで、
患者が最も必要とするのは、精神的な支えのように思います。
それがなければ、効くはずの薬も効果が半減しそう。
自分の信じた医師に頼り、思っていることを全部話して、
聞いてもらえる安心感は大きな支えでした。
素直に話せたから、病気を乗り越えることができたんです。
じゃなければ今もまだ、病気と必死に闘い続けていたような気がします。
一緒に歩いてもらえて、心強かった。
そういう先生と巡り会えたことに、心から感謝しています。>


私をステロイドから救ってくださったのも
一人のやさしい女医さんでした。
一緒にリスクを背負ってくださる姿勢がうれしくて
がんばれました。

膠原病ばかりでなく、
病に迷う方々に読んでいただきたい本です。
辛い場面が多いのに、それを明るくテンポよく綴る力量は
ライターとしての経験ゆえ、そしてお人柄ゆえだと思います。
そして何よりもあたたかいご家族にも拍手を。



『迷走患者: 〈正しい治し方〉はどこにある』→








by uminokosyoten | 2017-10-22 19:41 | 本読み便り