ブログトップ | ログイン

海の古書店

本のこと、心に浮かんだことを綴ります。香りのお店「Atmosfera」:http://atmosfera-kamakura.com/ お問い合わせ: books@good.memail.jp


by uminokosyoten

「ルピナスさん」に想う

「ルピナスさん」に想う_a0135581_09584026.jpg


街で見かけたルピナスさんのきれいなTシャツ。
家に帰って久しぶりに絵本を開いてみました。
そして、不思議なことに気づきました。

子どもがたちが幼いころは
「世界を美しくする」というおじいさんとの約束に心惹かれたものでした。
けれども年齢を重ねてふたたびこの絵本と向き合うと、
むしろ、一人の女性の孤独との対峙がとても大きなテーマに見えてきて。
「とおいくににいく」「おばあさんになったら海のそばの町にすむ」。
私もこの二つの約束の大切さがわかる年齢になったのかもしれません。
旅の途中で体をいためたルピナスさんの老年の日々は
決してたやすいものではありません。
いたみと孤独がそばにあって。
それをきちんと絵本に描いてみせるところが
バーバラ・クーニーの女性観の表れとしてとても魅力的だと感じます。
ごまかしのない、
でもだからこそどの年齢になっても読み手の心に響くものを秘めている
そんな絵本の真の力を思いました。



「ルピナスさん」に想う_a0135581_10025987.jpg



「ルピナスさん」より

つぎのとしの春は、いためたせなかがまたわるくなり、
ほとんどねてすごさなければなりませんでした。
まえのとしの夏にまいた花のたねが、いわのあいだからめをだして、
花をさかせました。
あおや、むらさきや、ピンクの花が、
ねているへやのまどからみえました。
「ルピナス、わたしのいちばんすきな花」
ミス・ランフィアスはうれしくなりました。
「らいねん、もっともっと花がふえるように、夏のあいだに、
またたくさんたねをまけるといいのだけれど」
けれども、それはゆめにおわりました。
きびしい冬がおわって、春がきました。
ミス・ランフィアスのぐあいもずっとよくなって、
さんぽができるようになりました。
ある日、ながいこといっていないおかのむこうがわまで、
あしをのばすことにしました。
「まさか、あれは!」
おかのうえにたどりついたミス・ランフィアスは、いきをのみました。
おかのはんたいがわに、あおや、むらさきや、ピンクのルピナスの花が、
さきみだれていたのです。




静かに待つことの大切さもわすれてはならないのですね。




by uminokosyoten | 2016-05-27 07:02 | ことばのおと