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海の古書店

本のこと、心に浮かんだことを綴ります。香りのお店「Atmosfera」:http://atmosfera-kamakura.com/ お問い合わせ: books@good.memail.jp


by uminokosyoten

「Les échasses rouges」

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「Les échasses rouges」とは「赤い竹馬」の意味です。
サンジェルマンの絵本屋さんでこの絵本と出会っていなかったら、私は今もフランス語の絵本を読むことはなかったと思います。
一度は棚に返したものの、どうしても気になってレジに持って行ったこの本は、美しい絵をながめているだけではストーリーがなかなか想像できないものでした。
そこで先生にお願いして訳を見ていただく決心をしたのでした。
私のほんの小さな1歩ではありますが、でもこの1歩がなかったら、私はフランス絵本のセレクションといううれしいお仕事はいただけなかったのです。
絵本がもたらしてくれたお仕事に感謝してここに先生との共訳をアップさせていただきますね。
絵本の専門家にお尋ねしましたが、この絵本の和訳本は出る予定はないとのこと。
フランスではカレンダーに選ばれるほヒットした作品だったそうです。

それでは、「赤い竹馬」をお楽しみくださいませ。
とても不思議なお話です。
なお、訳はできるだけ原文に近い直訳にしております。文章が稚拙に響くところもあるかもしれませんが、おゆるしくださいませ。

「赤い竹馬」
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マレキューム村は水の上にありました。 家々は杭の上に建てられていて、小道は川、大通りは深くておだやかな大河になっていま した。
水にぬれずに移動するために、人々は竹馬を使っていました。 バランス感覚のよい人たちは街灯の高さで散歩をしました。 そうでない人たちは波の表面をかすめるように歩きました。




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遠くに見えるのは、一番高い竹馬を持っているレオポルドでした。
竹馬は 森の高さほどもあり、その地方で一番高くて一番まっすぐで一番丈夫な 赤いポプ ラでできていました。 その竹馬のおかげで、レオポルドは他の村人たちが住んでいる3階や4階のさらに上の屋根 の高さで舞うように歩きました。 彼が最も興味を抱いていたのは空だったのですが、雲や脚の下を通って行く鳥たちにも関心がありました。




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レオポルドのただひとりの友達はカササギでした。 そのカササギはほとんどおしゃべりをしませんでした。 カササギに対してレオポルドがさらに気に入っていたのは、雨や晴れ、あるいは鯉の泳ぐ 道筋についてなにも話す必要がないことでした。 レオポルドとカササギは見つめ合うだけでわかり合えたのでした。



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その夜、例年のように冬の一番長い夜に、マレキューム村の祭りがあることになってい ました。
村人たちは皆徹夜で準備をしました。 子どもたちはランタンを吊るすために、竹馬を使って短いはしごをつくりました。 それは楽しいけれど、でも難しい仕事でした。 彼らは高い所にいる人に手伝ってほしくて「レオポルド!」と声をかけました。 けれどもレオポルドは遥かに高い所を歩いていたので、子どもたちの声は彼には届きませ んでした。
レオポルドは雲をかきわけて、そのまま行ってしまいました。




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もう少し離れたところでは、靴屋が新しい看板を店の上につけようとしていました。 お祭りが近づくにつれて、彼の仕事はいそがしくなっていたのです。 けれども看板はあまりにも大きすぎました。 水に濡れないように看板を高いところにかけなければなりません。 「レオポルド!」と、今度は靴屋が叫ぶ番でした。 しかし、彼の声は屋根の高さで消えてしまいました。 レオポルドにはなにも聞こえませんでした。 彼は果てしなく高い竹馬で散歩をしていたので、頬には細かい霧があたり心地よく思っ ていたのでした。



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レオポルドにはお祭りの準備のほんの小さな物音も聞こえませんでした。 彼は村人たちから遠く離れて宇宙を浮遊していたのです。 しかし、村は熱気に包まれていました。 村人たちは一番美しい飾りで着飾って、光る玉で竹馬をいろどり、声をかぎりに歌いまし た。
ざわめきはとても大きなものでした。 けれども、うわの空で散歩をしているレオポルドには何も聞こえてはきませんでした。



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レオポルドは友達のカササギのことを思い出しました。 彼女もまた美しく飾られていました。
「今年、私は冬至のお祭りのために村人たちの中へ降りて行くわ。今夜私たちはラグーン 広場のたき火の周りで歌って踊るのよ。じゃ、またね!」
しかしレオポルドは考え事をしていたので、空に舞うカササギの美しい羽根を見ながらも 歩みをかえようとはしませんでした。



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その夜がふけて、レオポルドはカササギがいないことに気づき嘆きました。 彼は初めてひどい孤独を味わいました。 その寂しさは雲も風も星も埋めることのできない空洞でした。 やがて彼はあごをおろして、下にある村の方を眺めました。 次にやっとのことで雨どいに近づき体をかたむけてみたのでした。 高い竹馬はたいへんじゃまになりましたが、レオポルドは体をかたむけ続けました。 家の壁を支えに彼は体をかたむけ続けて...。 お祭りで集まっている村人たちのちょうど真上に来ました。



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村人たちのざわめきがレオポルドに聞こえてきました。 「なんてことだろう!森の木が全部水に落っこちてしまった!材木を支えていた杭が外れてしまったんだ!たき火のための乾燥した小枝はもう1本も残っていないよ。お祭りがだいなしだ。」
レオポルドは冷たい道をたどって家に帰って行く村人たちを見ました。 笑い声や歌声は聞こえなくなり、村の灯りは消え始めました。




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ところが突然、木のくすぶる匂いが換気窓を通って家の中に入り込んで来ました。 おどろいた村人たちはそれぞれ家から出てきてラグーン広場を埋め尽くしました。 燃え盛った炎が踊るようにして彼らを待っていました。 炎の熱気は決してよわいものではなく、村の道すべてをあっという間におおいつくしてし まいました。 村人たちは手に手をとって竹馬で拍子をとりながら水をたたき、躍り始めました。



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大きな声で笑う人が波すれすれを通り過ぎるぐらいのとても小さな竹馬にのってい ました。
波は村人たちのダンスのざわめきにあわせて跳ねました。 村人たちはそれを見て驚きました。
それはレオポルドだったのです。 彼の大切な竹馬、丈夫でまっすぐな赤いポプラの竹馬はお祭りのたき火を燃やすために犠 牲になったのでした。
それは七十夜燃え続けたと言われています。
今でもまだマレキューム村では、信じられないほどだった赤い竹馬の話が語りつがれて います。
ラグーン広場では、その燃えかすが何年もの間熱いままだったそうです。 波すれすれのレオポルドは村人の心の中に「一番大きな人」として生き続けているのでした。
                              <サビーヌ&ノエル訳>



「Les échasses rouges」Eric Puybaret 

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多くの方にご覧いただきたい絵本です。
ご遠慮なくメールにてご連絡ください。
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by uminokosyoten | 2012-12-28 07:46 | フランス絵本